LOGINいつも『Senova』をお読みいただき、ありがとうございます。昨日、第48話として誤って別作品『ママごはん』の内容を投稿してしまいました。続きを楽しみにしてくださっていた皆様、大変申し訳ございません。本日、正しい第48話を改めて投稿いたしました。現在、第48話が二つ存在していますが、新しく投稿した「いい子だ。こんなに、僕……」から始まる方が正しい内容です。誤投稿分については担当編集者に連絡し、対応をお願いしております。今後は投稿前の確認を徹底いたします。引き続き『Senova』をお楽しみいただけましたら幸いです。
「今夜は、私だけを見ていてください、正臣さま」 正臣が不思議そうな顔をした。 「ほかに誰がいるの」 そう言って笑う顔が、嬉しかった。 莉乃は正臣の肩へ頬を寄せた。あの女が戻りたいと言っても、この場所だけは渡したくない。 正臣がベッド脇の灯りを消した。 正臣の唇が離れたあと、莉乃はまだその熱を追うように、わずかに身を寄せていた。 今夜は、私だけを見ていて。 さっき自分から言った言葉を、莉乃は心の中でもう一度繰り返した。 正臣は笑いながら、莉乃の腰を抱えてベッドの中央へ引き寄せる。シャツの裾がめくれ、素肌が触れた。まだ少し残る整形の腫れを、正臣は指先でそっと避けた。 「痛いところは、触らない」 低い声でそう言われて、莉乃の胸の奥が熱くなった。正臣は莉乃の寝間着の肩をゆっくりと滑らせ、鎖骨に唇を落とす。キスというより、確認するように長く触れ続けた。 「よく頑張ったな、灯里」 耳元でそう呼ばれても、莉乃は否定しなかった。今は、この名前で褒められることが、自分への言葉に聞こえた。 こんなふうに愛されるなら、灯里になってもいい。 呼ばれる名前が違っても、正臣の隣にいられるのは自分なのだ。今夜は、それで十分だと思えた。 正臣の手が胸の下から脇を撫で上げ、指の腹で乳首を軽く押さえる。強くはない。ただ、熱を与えるように円を描いた。 「……んっ」 莉乃は小さく声を漏らした。正臣はその声を聞くように、もう一度同じところを指で擦る。 「ここ、敏感になってる。昨日の夜から、ずっと我慢してたのか」 「……はい」 正臣は答えを待たずに、莉乃の膝を押し開いた。寝間着の裾が捲れ、太ももの内側に指が這う。莉乃は反射的に脚を閉じようとしたが、正臣の手がそれを許さなかった。 「隠さなくていい。今夜は、君が欲しいところだけを、全部教えてくれ」 その言葉に、莉乃の腰が小さく跳ねた。正臣の指が下着の縁をずらすと、すでに濡れた感触が指先に触れた。正臣はそれを確認するように、ゆっくりと二本の指を沈めていく。 「……っ、正臣さま」 「いい子だ。こんなに、僕を待ってくれてた」 指が奥まで入り、ゆっくりと動かされた。莉乃はシーツを掴み、息を荒くする。正臣は焦らさず、けれど急がせもしない。親指で敏感なところを軽く押さえたまま、指を内側で
「あなたの料理を審査するより、完成させる方を手伝いたいからです」 煌は、迷わずそう言った。 「でも、神楽坂と九条の関係があるんでしょう。煌さんが私の味方をしたら、困るんじゃないですか」 「困るでしょうね」 あまりにもあっさり認められ、糀は言葉に詰まった。 「それなら――」 「私は、あなたを応援したい」 煌は、まっすぐ糀を見た。 「だから、審査はしません」 「……私の料理だからですか」 「あなたの料理だからです」 まっすぐに答えられ、また顔が熱くなった。 「あなたが八年かけて作ってきた料理と、澄江さんから受け継いだ店を、私は知っています。それを知らないふりをして、美咲さんの料理と公平に比べることはできない」 嬉しかった。 煌が糀の料理を信じてくれていることも、向こう側に立たないと言ってくれたことも。 「手伝うって、何をするんですか」 「祖父の遺品を、もう一度調べます」 「それだけで見つかるでしょうか」 「九条にも、まだ何か残っているはずです。そちらは私が探します。あなたは料理を作ってください」 煌は少し間を置いた。 「できた料理は、私が全部食べます」 思っていた答えと違い、糀は煌の顔を見た。 先ほどまで、煌は糀が作った料理を一口ずつ大切そうに食べていた。「この味です」と言った時の、幸せそうな顔も覚えている。 試作をするたび、煌がこの席に座るのだろうか。おいしい時は目元を緩め、違う時には何度も味を確かめる。その姿を思い浮かべると、さっきまで苦しかった胸が少しだけ温かくなった。 食べることが難しい煌が、糀の料理だけは残さず食べてくれる。 そのことが、料理人としてどれほど嬉しかったか、煌は知らないのかもしれない。 糀は、もう一度写真を見た。 「どうして、今まで言わなかったんですか」 煌はすぐには答えなかった。 「言えば、澄乃七献のためにあなたへ近づいたと思われる」 「私が、そう思うと?」 「はい……思いました」 煌は黙った。いつもなら糀から目を逸らさないのに、今は写真へ視線を落としている。傷ついたような顔をされ、糀の胸も痛んだ。 しばらくして、煌がようやく口を開いた。 「あなたに嫌われるのが、怖かった」 どんな問題が起きても顔色ひとつ変えず、冷静に対処する有能な経営者
燎は私を見つめたまま、笑みを深めた。 昨日、控室でキスをした時と同じくらい、目が熱い。 燎が身をかがめ、私の耳元へ唇を寄せた。 「ますます、手放したくなくなるな」 私にしか聞こえない、低い声だった。 熱い吐息が耳たぶをかすめ、首筋までぞくりとした。 今、そんな声で言わないで。 昨日のキスの続きを、欲しくなってしまう。 燎の顔を見るのが悔しくて、私は神崎教授へ目を戻した。 神崎が燎へ向き直った。 「鷺宮さん。では、外で待っていただけますか」 燎は引いていた椅子を戻した。私と神崎教授、エリックを順に見る。 「終わったら、呼べ」 扉が閉まってから、私は端末をテーブルへ置いた。 神崎教授には、医療の現場で何が必要かを聞いた。エリックとは、今の技術でどこまで作れるかを話した。二人の助言を受けて、考えていた構想が、新しい製品の設計としてまとまっていった。 新しい特許も狙えると、エリックは言った。 早く作りたい。奪われたものを取り返すだけでなく、今度は、自分の新しい製品で勝ちたい。 昼前には、二人とも一緒に開発すると言ってくれた。 私が考えたものを、この二人も作りたいと思ってくれた。それが嬉しかった。 扉を開けると、燎が廊下で電話を切った。 早く話したくて、私は彼の前まで歩いた。 「新しい特許も狙えるって!」 燎は私の顔を見て、笑った。 「もう、そこまで話したのか」 「うん。新しい製品の設計ができたの。二人とも、一緒に作ってくれるって」 言いながら、また嬉しくなった。 今度は、最初から私の名前で作るのだ。 「まだ、ちゃんと作れるかは分からないけど」 「だから、あの二人が加わるんだろう」 燎は私の肩に手を置き、顔をのぞき込んだ。 「俺の紹介だけで、あの二人は動かない」 私も、この人にもっと話したかった。今日、二人と考えたことを、まだ半分も伝えられていない。 何より、嬉しい時に、まず燎の顔を見たくなった。彼が笑うと、また話したくなる。 「お昼、一緒に食べない?」 燎の手が、肩から背中へ回った。 「その誘いなら、断らない」 *** その日の夜、久条の屋敷で、莉乃は正臣の寝室にいた。 階下では、志津子が柊吾と会社の話をしている。夕食に招いたのだと、使用人から
「……そんなこと、言ってない」 説明会後の控室で、燎を見上げた。 何を言っているの。こんなところで。 そう続けるつもりだったのに、燎に腰を引き寄せられると、言えなくなった。 近づいた唇に、吐息が触れる。 「なら、離せ」 燎が、私のつかんでいる手首へ目を落とした。 離したら、この近さも終わってしまう。 それが嫌で、私は指に力を込めた。 「……いやよ」 燎の目が私の唇へ下がった。 今、自分が何を言ったのか分かって、顔が熱くなる。それでも、手は離せなかった。 唇が触れた。 思っていたより柔らかくて、すぐに離れたのが物足りなかった。 もう一度、触れたい。 首に手を回して、今度はもっと深く口づけたい。燎にも、私と同じくらい夢中になってほしかった。 手首から指を離し、その肩へ手を伸ばしたとき、扉の向こうで足音が止まった。 「続きは明日よ」 「明日もあるのか」 「仕事の話」 燎が笑う。 私も、今度は一緒に笑ってしまった。 *** 翌朝、奏汰の朝食と薬を見届けてから、私はSENOVAの開発室へ向かった。 約束の時間より少し早く着いたのに、神崎修一教授は、もう長いテーブルの向こうに座っていた。 小児消化器の共同研究を率いる医師だ。白髪の混じる短い髪と、動画で見ていた丸い眼鏡を見て、思わず足が止まった。 その隣に、エリック・ウォルシュがいる。海外の複数病院をつなぐ情報基盤を作った技術者で、背が高く、腕まくりしたシャツに細い時計をつけていた。 父と講演を見ながら、いつか直接話を聞いてみたいと言っていた二人だ。 半年先まで予定が埋まっている人たちが、本当に目の前にいる。まだ試作品もできていない、私の研究のために。 燎は、本当にこの二人を呼んでしまった。 なんて人なの。 手にしていた端末を持ち直した。 父にも見せたかった。でも、今日は私が話すのだ。 「桐谷灯里です。お時間をいただき、ありがとうございます」 神崎が立ち上がり、握手をした。 「お父様とは、一度お会いしました。あなたが続きを作っているそうですね」 父の名前を知っているのか。 嬉しかった反面、急に緊張した。期待されるのはありがたい。でも、父の娘だからで終わりたくなかった。 「最初は息子のためでした。今
燎は笑みを浮かべたまま、すぐには答えなかった。説明会後の控室で、私たちは向かい合っている。 目をそらしたら、冗談にされそうで、私は見つめ返した。 早く答えてほしい。このままでは、何でもいいから欲しいと、余計なことまで言ってしまいそうだった。 燎が、少し顔を寄せた。 「俺の一日をやる。誰にも邪魔させない」 それから、テーブルに置いたままの腕時計へ手を伸ばした。 「それ、明日もくれるの?」 「明日は仕事だ。勝った後は、君の好きにしていい」 時計をつけながら、燎が私を見た。 「仕事でも、それ以外でも」 わざと、最後をゆっくり言った。 その視線が、私の口元へ下りた。仕事以外に何を欲しがるかまで、分かっているのだろうか。 「難しい交渉を全部頼んでも?」 「構わない。だけど、本当にそれが欲しいのか?」 燎は時計の金具に指をかけたまま、私を見た。 口元には悪戯っぽい笑みがあった。そのくせ、私を見つめる目は熱い。 まるで、欲望を丸裸にされているみたいだった。 交渉なんて口実だと、分かっているの? 仕事がなくても二人で会いたい。私だけを見てほしい。 でも、それをどう言えばいいのだろう。 「……何が言いたいの」 私は燎を睨んだ。 燎は小さく笑い、少し軽い調子で続けた。 「それとも、仮説でも聞いてほしいのか」 え? 懐かしい言い方に、私は動きを止めた。 まだ話したいと口にする前に、続きを促してくれる。そんな人が、昔もいた。 顔も本名も知らないまま、夜中まで研究の話をした人。 「あと五分。ひとつだけ、仮説を聞いて」 九年前、私はよくそう言って、その人を引き止めた。反論されれば腹が立つのに、返事が来るのは嬉しかった。 研究の話なら翌日でもよかった。それでも、会話を終わらせたくなかったのだ。 顔も本名も知らない。会ったことさえなかった。でも、あの人から返事が来るのを、毎晩待っていた。 私は確かに、あの人に好意を持っていた。 私は燎の顔を見た。 もし、あの人が、この男だったら。 「……あなたなの?」 燎の指が止まった。 「何のことだ」 私はその顔を見つめた。 あの人も、私が話し足りないことをすぐ見抜いた。まだ何も言っていないのに、続きを聞くつもりで返事をくれた







